最近の各種報道の中からブラック企業関連NEWSをピックアップしています。

●記事要旨
「ブラック企業ゼロ」実現を拒む「4つの悪しきメカニズム(4つの問題)」が存在する。

(1)労働行政・司法の問題

<ポイント>
・工場労働者前提の労働法規
・「特別条項」という実質ザル法
・「企業に社会保障を一部担わせる」という考え方
・罰則が甘い
・労働基準監督署も人員不足

(2)雇用慣行の問題

<ポイント>
・日本独自の「メンバーシップ制」

(3)従業員の問題

<ポイント>
・「長時間労働は組織への貢献」という信念
・「成果」よりも「労働時間」で評価する上司
・効率的な仕事のしかたを知らない
・他に居場所がないので長時間オフィスにいるだけの「やる気偽装」社員の存在

(4)顧客の問題

<ポイント>
・「お客様は神様」のカン違い
・下請け扱いして理不尽な要求をおこなう発注主の存在

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先日の衆院選で大敗を喫した希望の党。同党が掲げた衆院選公約の1つに、「ブラック企業ゼロ」があった。発表当初から不可能だという声が多く挙がったが、その道のプロはどう見ているのか?「ブラック企業アナリスト」として知られる新田龍氏が、「ブラック企業ゼロ」の実現可能性について語る。

実現を阻む4つの問題

先般「希望の党」が発表した公約の中で「ブラック企業ゼロ」が謳われ、大いに注目しているところだ。

昨今は相次いで痛ましい過労死事件が報道され、長時間労働への見直し機運が高まるとともに、厚生労働省は悪質な違反を繰り返す企業の実名を積極的に公開するなど、ブラック企業への風当たりは日々強くなる一方だ。

これまでさまざまなブラック企業問題を取り扱ってきた身としては、ぜひその実現に向けて具体的なアクションを期待したい。

同党の中心的な公約は「消費増税凍結」「ダイバーシティ社会実現」など全部で9つ。それを裏付ける政策案として85件が挙げられていた。その中で、ブラック企業対策に関連がありそうな政策を参考に、「ブラック企業ゼロ」宣言の実現可能性を検討していこう。

<同党の雇用・労働関連政策案抜粋>
・ブラック企業について、残業、休暇、給与などに関する要件を明確化し、該当企業の名前を公表することにより、「ブラック企業ゼロ」を目指す
・長時間労働に対する法的規制
・同一価値労働同一賃金
・働き方改革の推進、再就職支援制度の抜本拡充などにより成長分野への人材移動を円滑化
・「時差 Biz」による「満員電車ゼロ」実現など生活改革を進め、労働生産性を高める

全体的に抽象度が高い表現ではあるものの、現政府が進める「働き方改革」の文脈に沿った形でもあり、総論大賛成というところだ。

しかし、その実現には大きな困難が待ち受けている。

「そもそも…」と考えてみてほしい。「ブラック企業」というキーワードが広く語られるようになって約10年。「ブラック企業を見抜く方法」や「抜け出す方法」といった情報にも簡単にアクセスでき、ブラックなことをやらかした会社の名前はネット上を瞬時にかけめぐる。

なのになぜ、いまだに「ブラック企業に入ってしまう人」や「ブラック企業を辞められず苦労している人」が少なからずいるのだろう。そしてなぜ、そんな悪質な会社が淘汰されず、生き永らえているのだろう。

目前にあるこの現状こそ、「大きな困難」と記した理由である。もどかしい限りなのだが、「ブラック企業ゼロ」実現にあたっては、コレという有効な決定打は存在しない。この国と民族性に根付いた、奥深く複雑に絡み合った数多くの問題や慣習を、同時平行で改善していかねばならないのだ。

では、その「複雑に絡み合った数多くの問題」とはいったい何だろうか。要素別に大きく4つある。詳細に見ていこう。

(1)労働行政・司法の問題

<ポイント>
・工場労働者前提の労働法規
・「特別条項」という実質ザル法
・「企業に社会保障を一部担わせる」という考え方
・罰則が甘い
・労働基準監督署も人員不足

日本の労働基準法は、諸外国と比較しても緻密に規定がなされているものの、実質的には抜け穴が存在するため、違法行為に対する抑止力として機能していない面がある。

労働時間が良い例だ。労働基準法では「1日8時間、1週間40時間まで」と明確に規定されているが、それが法的な上限だと捉えている人は多くないだろう。しかるべき手続きさえとれば、青天井で残業させることが実質的に可能になっているからだ。

また、日本の労働法制と司法判断においては長らく、「企業が雇用を丸抱えし、それを行政が支援する」という考え方があった。それ故、雇用を危うくする「解雇」についての規制は比較的厳しいが、他の違反には甘めな司法判断となっており、労基法違反に対する抑止力になっていない面がある。

ブラック企業にとっての労基法違反はいわば「スピード違反」と同じ。「なんとなく違法とは分かってるけど、みんなやってるし、捕まらないし、万一捕まったとしても罰金払えばいいんでしょ」と開き直っているものだ。

実際、労働基準法違反行為が発覚しても、それが即犯罪扱いになるわけではない。まず労基署による指導がなされ、それでも改善しない悪質なケースは書類送検となる。そこで起訴となり、有罪判決が出てようやく実刑となるのだ。

しかも、その量刑としては多くが「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金」だから、場合によっては「罰金を払ったほうが、キッチリ残業代を払うよりもマシ」と考えるブラック企業経営者が出てきたりする。

解決のための第一歩として、既に2019年度の施行を控えているのが「労働時間の上限規制」だ。これまで実質青天井で、かつ罰則もなかった残業時間に関して、原則として月45時間、年360時間が法的にも上限となり、違反した場合には罰則が与えられる。これは大きな進歩であるといえよう。

あとは「インターバル規制」(当日勤務終了から次の日の勤務開始までの間に決まった休息時間の確保を義務づけること。すでにEU加盟国では1993年から「24時間につき最低連続11時間の休息時間」を義務化している)の導入や、労働基準法違反の場合の厳罰化(罰金額を現状の10倍程度に増額)、その場合の罰金を取締役個人のポケットマネーから支払わせるようにするなど、抑止力となり得ることはいろいろ考えられよう。

(2)雇用慣行の問題

<ポイント>
・日本独自の「メンバーシップ制」

日本の場合、正社員はいい意味で皆平等だ。会社はいわばファミリーのような位置付けで、その社風に合った人柄や可能性を持つ(と判断された)人が入社する。

このシステムの良い点は、「全員が幹部候補」という建前で、頑張って組織に貢献すれば、誰しもがトップマネジメントに就ける可能性があるところ。また擬似的なファミリーゆえに、会社は従業員に「安定」や「福利厚生」を提供し、彼らの将来のキャリアプランも含めて面倒を見てくれるのだ。

しかし、そんなメリットと引き換えに正社員は重い責任を負い、会社の裁量次第で残業、転勤、出向、転籍などを命じられ、実質的にずっと会社に拘束され続けるシステムであるともいえる。

この点、日本と諸外国で大きく違うところだ。日本以外の国では、会社に存在する個々の業務について職務要件が詳細に規定されており、その要件を満たせるだけの能力やスキルを持った人が採用される。

いわば「人に仕事がつく」形なので、会社主導のローテーションは存在せず、就いた仕事をずっと続けていくことになる。

マネジメントはごく一部の高給エリートが担い、彼らは超絶ハードワークと引き換えに億単位の報酬を得る。一方で一般ワーカーは、エリート管理職層が立案した経営判断に従って決められた業務をこなすことが期待される。

彼らの役職や報酬はさほど変化しないかわり、残業は基本的に存在せず、ワーク・ライフ・バランスは充実している。「欧州の労働者」と聞いてイメージする「丸々1ヶ月間のバカンスを満喫」といった働き方は、こちらの一般ワーカーに当てはまるものだ。

どちらが良い・悪いといった話ではなく、日本はこのシステムのメリットを活かして長年うまくやってこられたのは事実である。

スキル経験に乏しい新卒学生でもまんべんなく就業機会が得られ、多様な職務経験を積んでゼネラリストとして育成される。会社にとっても人材配置の自由度が高く、都合のよいものだったが、キャリア形成を会社に丸投げすることがリスクとなり、働き方の多様性が求められるこれからの時代には、この慣習も見直しが必要なタイミングかもしれない。

現在こそ、正社員として1社に職務専念するという働き方が主流であるが、副業を許可する企業も増えつつある。今後は業務委託的に、複数企業のプロジェクトを掛け持ったり、曜日毎に異なる企業に出勤したりするといった光景も普通になっていくかもしれない。

(3)従業員の問題

<ポイント>
・「長時間労働は組織への貢献」という信念
・「成果」よりも「労働時間」で評価する上司
・効率的な仕事のしかたを知らない
・他に居場所がないので長時間オフィスにいるだけの「やる気偽装」社員の存在

従業員はブラック企業の被害者でこそあれ、「ブラック企業化の一因」といわれてもピンとこないかもしれない。しかし、実際に働き方改革の現場に接していると、従業員が改革の阻害要因となるケースは少なからず存在するのだ。

たとえばトップダウンで働き方改革を進めようとする会社において、「残業ゼロ」になったら喜ぶ従業員が多いと思いきや、「やりたくて残業している」「自分なりのペースでやりたいのに、会社から細かく管理されたくない」と反発する者がいたり、「生活残業ができなくなる」とネガティブな反応をしたりして、改革に協力的でない雰囲気が生まれることがある。

また評価者によっては「短時間で仕事を終わらせて早く帰る人」よりも「深夜も休日も出社して仕事をしている人」のほうがより頑張っているように映り、結果的に長時間労働が評価されてしまうケースも存在する。

さらには、そうやって評価された人が出世し、評価する側にまわり…と悪循環が繰り返され、成果とは関係なく「単にオフィスに長時間いる」ことが出世の条件となりかねない。

仕事ができず、いつクビになるかと戦々恐々している人にとっては、長時間オフィスにいることこそ格好の「やる気偽装」の隠れ蓑となろう。

結局、これまで「とにかく長時間労働をがんばる」ことによって成功体験を得てきた組織や人はなかなかその状態から離れられず、「短時間で効率的に仕事をこなして早く帰る」という仕事の仕方を教わる機会も、トレーニングする機会もないまま今に至っているわけだ。

そう考えると、働き方改革で最も改革しなければならないのは、会社よりも労働者側なのかもしれない。

「組織の目的達成に必要な人材」が制約条件を抱えているなら、会社はその人を懸命にサポートするはずだが、価値を提供できない人材を積極的にサポートする会社などほとんど存在しないからだ。会社の人材戦略に対してガチンコで対峙し、伍していかないと使い潰されてしまうだろう。

さらに根深い問題とは…

以上の3つの問題に加え、「(4)顧客の問題」というものが存在する。

<ポイント>
・「お客様は神様」のカン違い
・下請け扱いして理不尽な要求をおこなう発注主の存在

これまで述べてきた社会構造的な要因と比べると些細なことのように思えるかもしれないが、実はこの問題こそ根深いものだ。

しかし、対策がないわけではない。その詳細は次回に譲り、課題解決に成功している具体的な企業名を挙げながら考察していきたい。

(現代ビジネス)